日本の官公庁で活躍する馬たち

日本の官公庁で活躍する馬たち

日本の官公庁で活躍する馬について

官公庁とは、1府12省庁からなる中央省庁や、裁判所や日本銀行等を含む「国と地方公共団体の役所」です。では、その中に馬と深い関係を持つ省庁がいくつかあることをご存知でしょうか。
農林水産省、宮内庁、防衛省、そして、国家公安委員会(警察庁)です。

農林水産省 馬との関係

まずは、最初に農林水産省について紹介します。

農林水産省の中でも、生産局畜産競馬監督課が主に馬に関する部分を担っている機関です。
この機関は、競馬を知っている人なら一度は耳にする日本中央競馬会(以下JRA)の監督課でもあります。

生産局畜産競馬監督課 馬に関わる業務

その業務は、全国の競馬場やJRA、その他競馬に関する団体への監督と指導、そして国営競馬特別会計と呼ばれるお金の管理となっています。

ちなみに、JRAは日本国政府が100%出資して設立された特別法人です。

ところで、競馬の起源は「戦馬の改良」であったことをご存知でしょうか。

戦争のために、より速く、強く、扱いやすい馬を増やすための1つの方法として行われていた競馬は、戦後もその目的は残しつつ、様々な形を経て今日まで根強く続いてきたのです。
現代の競馬産業は大きく成長し、令和元年度は約3兆円を売り上げ、その内約3,000億円を国庫金として納めています。

宮内庁 皇室で活躍する馬

皇室と馬の間には、昔から切り離せない関係があります。

皆さんは皇居の周りで、馬車やそれを護衛するために列を作っている馬たちを見たことはありますか?

信任状捧呈式で活躍する馬

あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、「信任状捧呈式」という、
国にとって非常に重要な式典の光景で馬たちが活躍します。

信任状捧呈式とは、各国からやってくる外交官が、自分の国の元首から託された信任状を、着任先の相手国の元首へ渡すという儀式です。

簡単に言えば
「この人を外交官として送るので、よろしくお願いします」という
国の元首間でのお手紙を渡す儀式のようなものです。

日本では、天皇が皇居にて信任状を受け取ることが憲法により定められており、
その際東京駅から皇居までの移動方法として馬車が使用されています。
(ただし、馬車の代わりに特別な車両を希望することもできます。)

その馬車は儀装馬車と呼ばれ、最も古いものは大正時代に作成されており、
現在使用している馬車は昭和60年の文仁親王成年式等の儀式にも使用されたものとなっています。

また式典の際には、馬車を警備する者もまた、馬に乗っています。

また、護衛は警視庁騎馬隊の隊員たちと合同で行われます
この皇宮警察の騎馬隊も主馬班と同様に、皇居内の一角で馬を飼育・管理しています。

皇宮警察本部騎馬隊は、皇宮警察本部護衛部護衛第一課に属しており、信任状捧呈式の馬車の護衛がその任務です。混同してしまいそうですが、馬車を実際に引くのは宮内庁車馬課主馬班所属の人馬なので、騎馬隊とはまた別の機関になります。

宮内庁車馬課主馬班について

宮内庁車馬課主馬班は、前述した信任状捧呈式で、馬車を曳く馬たちの飼育・管理や調教、そして馬車の運行を担っている国家公務員です。

21人の選ばれし人たちが、皇居の一角で毎日24時間体制で33頭の馬の世話をしています。

また、馬車の馬に取り付ける装具の管理や準備も行っています。

宮内庁車馬課主馬班の任務 古式馬術

宮内庁車馬課主馬班の任務は馬車や馬の管理だけではありません。古式馬術という、現代ではほとんど目にすることのできない伝統を受け継ぎ、守っていくこともまた、重要な任務の1つなのです。

主馬班が継承している古式馬術には、(だきゅう)母衣引(ほろひき)があります。
まず打毬とは、現代でも行われる馬術である「ポロ競技」の中国版のもので、日本には8〜9世紀頃に伝わったと言われているものです。
馬場の中に落ちている複数の球を、毬杖(きゅうじょう)と呼ばれるラクロスのラケットのような専用具ですくい上げ、より多くゴールへ入れた方が勝ちという競技です。

母衣引とは、背中に10mほどの吹き流しと呼ばれる布を付け、徐々に伸ばしながらなびかせて走る芸術的な馬術です。この馬術は、主馬班でのみ受け継がれており、外国大使のおもてなしとして披露されることもあります。

宮内庁車馬課主馬班の任務は馬車や馬の管理だけではありません古式馬術という、現代ではほとんど目にすることのできない伝統を受け継ぎ、守っていくこともまた、重要な任務の1つなのです。

宮内庁車馬課主馬班の任務 過去のパレード・祭典など

毎年行われるものとして、祝賀の儀、宴会の儀、茶会の儀、一般参賀、そして20件近くある宮中祭祀等があります。しかし、残念ながらこれらには馬車は登場しません。

信任状捧呈式の他には、昭和3年の即位の礼昭和27年の立太子の礼及び皇太子成年式昭和55年の徳仁親王成年式平成3年の立太子の礼、そして、令和元年の親謁の儀等がありました。信任状捧呈式については前述した通りです。

昨年に行われたに親謁の儀について。ここでは昨年に行われたに親謁の儀について説明します。
親謁の儀とは、天皇陛下がご即位された際に行われるご即位・大礼の儀式の儀式のうちの1つです。この儀式の中には、親謁の儀以外にも剣璽等等継承の儀、即位後朝見の儀、神宮に奉幣の儀等多くの儀式があります。

2019年に行われた親謁の儀は、三重県の伊勢神宮外宮にて、天皇、皇后両陛下がその参道を進まれる際に、馬車が使用されました。

警察庁 警察で活躍する馬

警察にも騎馬隊というものがあります。日本の場合は、3つがあります。

・皇室の方々の護衛を務める皇宮警察本部騎馬隊
・東京を管轄している警視庁騎馬隊
・京都府を管轄している平安騎馬隊

馬に乗る警察は騎馬警官

馬に乗る警察は騎馬警官と呼ばれますが、その役割は一般的な警察官とは大きく異なります。

騎馬警官の任務
・パレードや祭典への参列
・交通安全の整備やパトロール
・信任状捧呈式の護衛等

そのため、その役割はどちらかと言えば儀礼やメディア向けと言った気質が強いと言えるでしょう。

皇宮警察本部 騎馬隊

皇宮警察本部騎馬隊は、皇宮警察本部護衛部護衛第一課に属しており、
信任状捧呈式の馬車の護衛がその任務です。

混同してしまいそうですが、馬車を実際に引くのは宮内庁車馬課主馬班所属の人馬なので、
騎馬隊とはまた別の機関になります。

また、護衛は警視庁騎馬隊の隊員たちと合同で行われます
この皇宮警察の騎馬隊も主馬班と同様に、皇居内の一角で馬を飼育・管理しています。

ちなみに、騎馬隊に所属している隊員は、馬専用ではなく、
普段は皇室の方々や、その施設の警備等を担っています。

騎馬警官 平安騎馬隊

次に平安騎馬隊について紹介します。
平安騎馬隊は、平安遷都1200年を記念し、1994年に設立された比較的新しい騎馬隊です。

その活動軸は、大きく分けて3つあります。
・パトロール
・雑踏警備
・騎馬隊によるパレード

1つ目はパトロールです。
観光シーズンの観光地や、小学生の子供たちの通学路等をパトロールします。平日の下校時間を中心に行っているので、比較的目にする機会も多いのではないのでしょうか。

2つ目は雑踏警備です。
簡単に言うと、人が多く集まるところでの警備になります。
京都三大祭では、お祭りの先導警備を行っています。

3つ目は騎馬隊によるパレードです。
交通安全や防犯啓発を目的としており、その予定は京都府警察のホームページやFacebookでチェックできます。
(※ただし令和元年度はコロナウイルス感染拡大防止のため、ほとんど中止されています。)

騎馬警官 警視庁騎馬隊

最後に警視庁騎馬隊について紹介していきます。

警視庁騎馬隊は1903年に設立されましたが、当時は警視庁と内務省との間の伝令や文書往復が主な任務でした。

警視庁騎馬隊の任務内容は大きく分けて5つあります。
うち3つは、一般向けのもので、2つは皇室に関するものとなっています。

~~~一般向け任務~~~

・交通安全教育に関するもの
・学童の交通整備
・パレードへの参列~~~皇室に関する任務~~~
・信任状捧呈式の馬車列の護衛と警備
・皇居前でのパトロール現代の警視庁騎馬隊の任務ですが、こちらも平安騎馬隊と同じく、主に広報的な意味合いが強いと言えるでしょう。
警視庁第三方面交通機動隊に属しており、現在は東京競馬場で馬を飼育・管理しています。
警視庁騎馬隊の任務 1つ目

まず1つ目は交通安全教育に関するものです。
幼稚園や小学校等へ赴き、子供達に安全の大切さを教えています。馬との触れ合いや試乗できることもあるこの活動は、年間400回以上に渡って行われています。

警視庁騎馬隊の任務 2つ目

2つ目は、学童の交通整備です。
小学生の通学時間に合わせて出動し、横断歩道では警笛を使ったり等し、子供たちの安全を守っています。

警視庁騎馬隊の任務 3つ目

3つ目はパレードへの参列です。
主に交通安全に関するパレードへの参列が多く、参列の際は交通整理に従事しています

警視庁騎馬隊の任務 4つ目

ここからは皇室に関係するものを紹介します。
4つ目は、信任状捧呈式の馬車列の護衛と警備です。

警視庁騎馬隊の任務の中でも最も重要なものと言っても過言ではないでしょう。
この任務は、皇宮警察本部騎馬隊と合同で行われます。
警視庁騎馬隊の任務 5つ目

5つ目は皇居前でのパトロールです。
皇居前広場で行われており、比較的遭遇できるチャンスが多いのではないでしょうか。
ただし、この活動は不定期なのであらかじめ日時を知ることは不可能となっています。

交通安全の取り組みなど

平安騎馬隊警視庁騎馬隊において、交通安全に関する任務があることは前述した通りですが、ここではもう少し詳しく紹介していきます。どちらの騎馬隊も、交通安全に関しては主に子供たちへ向けての活動になります。

特に年に2回行われる全国交通安全運動では、
様々な場所へ出動し、横断歩道の安全な渡り方等を指導したり、馬の試乗会をする等しています。

また通常時は、子供たちの通学時間に合わせて、学校の近くの交差点等へ出動し、交通整備を行なっています。

ちなみに、交通整備についてですが
平安騎馬隊は主に下校時間に合わせて、警視庁騎馬隊は登校時間に合わせて出動しています。

防衛省 自衛隊で活躍する馬

自衛隊にも馬がいる機関が1つだけあることをご存知でしょうか。
自衛隊体育学校という機関で、朝霞駐屯地の中にあります。

馬がいる機関、自衛隊体育学校とは?

自衛隊体育学校とは、健全で強い身体を持つ隊員の育成オリンピックを目標としたスポーツ選手の育成
隊員の身体能力を上げるための研究を目的として設立された機関です。

陸上自衛朝霞駐屯地内に設立されており、
陸上、海上、航空の全ての自衛隊共同の機関となっています。

この機関は、1964年の東京オリンピックへ向けて1961年に設立されました。1964年の東京オリンピックの際には20名もの自衛隊隊員が出場を果たし、さらにマラソンとウェイトリフティングの競技ではメダルを獲得しています。そして1964年の東京オリンピック以降、全てのオリンピック開催に対しても出場を果たしています。

自衛隊体育学校にはオリンピック選手育成コースがある

この体育学校の中には、特にオリンピック級の選手を育成へ特化した過程である「特別体育過程」というものがあります。この過程では、学校の徹底したサポートの元、自分のトレーニングに専念することができるエリートコースのようなものです。

ちなみに、現在特別体育課程に編成されている競技(種目)はレスリング、ボクシング、柔道、
射撃(ライフル競技、ピストル競技)、アーチェリー、ウエイトリフティング、陸上(マラソン、競歩)、競泳、近代五種、カヌー(スプリント競技)、ラグビー(女子)の11種目に加え、冬季種目のバイアスロン、クロスカントリースキーの13の競技(種目)です。

引用元:自衛隊体育学校 https://www.mod.go.jp/gsdf/phy_s/michi.html

この記事を読んでいる方の中にも、「ぜひ入りたい」と考えている人もいるかもしれませんが、
希望すれば誰でも入れるというわけではありません

ここ「特別体育過程」へ入るには
・自衛隊入隊時に体育特殊技能者として採用される
・もしくは一般入隊後に特別体育過程学生候補者集合訓練へ参加し、2回の選考を受けて合格
しなければならないのです。

そして、この自衛隊体育学校は、自衛隊の中で唯一馬を飼育している機関でもあります。

自衛隊体育学校の取り組み 近代五種の成績など

馬が登場するオリンピックスポーツ「近代五種」は、古代オリンピックで行われていたペンタスロンを元にして生まれた競技で、キングオブスポーツとも呼ばれています。

フェンシング、水泳、馬術、レーザーラン(射撃+ラン)の5つの種目を1日で行う競技です。
選手には、全ての競技をこなせる万能な能力、卓越した体力と精神力が必要とされます。
また、水泳とランに関しては身体能力があればクリアできる一方、フェンシング、馬術、射撃に関しては特別な技術が必要とされます。

この5種目の中のどれか1つだけ経験がある、という人はいるかもしれませんが全てとなるとそうはいかないでしょう。さらに、それらの特殊な種目は施設も限られており、オリンピック競技の中では比較的競技人口の少ない競技となっています。

特に馬術の練習には、大ききな土地と厩舎、特殊なコーチング能力
そして能力の高い馬が必要とされるため、専用の施設が必須です。

自衛隊体育学校は、馬術をはじめ、全ての課目の練習が可能な施設が揃っている、唯一無二の機関なのです。

オリンピック近代五種の監督やコーチの多くが自衛隊体育学校所属です。
2016年リオオリンピックに出場した岩元勝平選手三口智也選手も同じく体育学校所属となっています。

まとめ

馬は、大昔から人間と共に歴史を歩んできました。しかし、文明が進歩した現代日本においてもまた、その中心をなす機関の多くが、馬との深い関わりを持っていることは驚きではないでしょうか。

皇室、警察、自衛隊のように、一見馬とは全く関係無さそう見えても、そこには様々な形で関わりがあるのです
そして、その全てが特殊な業界ではあるものの、努力次第でそこへ向かって挑戦することが出来るのです。

 

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