馬装具いろいろ どんなときに使うの? ~後編~
私たちが乗馬するときや、競馬場の競走馬たちに使っている装備はいったい何のための道具なんだろう? たくさんの種類があって、一つ一つ覚えるのもなかなか大変ですよね。
これらは「馬装具」と言って、馬たちのために使用目的が定められているアイテムなんです。
前回の記事では、人が乗馬するにあたっての基本的な馬装具をご紹介しました。
今回は前回の馬装に加えて使用する、馬の性質に寄り添った補助的なアイテムを特集していきます!
イヤーネット
馬の耳をすっぽりとカバーする馬具です。帽子のようでとっても可愛いですよね。
馬はとても耳の良い動物で、クルクルと常時耳を動かしながら周りの状況を聞こえてくる音によって判断しています。同時に臆病な性格でもありますので、大きな音や聞きなれない音に緊張して落ち着きを失ってしまうこともしばしば。
イヤーネットは馬の耳を布で包むことにより、周りの騒音から馬を守り、乗馬やレースに集中させる役割があります。また、ハエやアブなどから馬の耳周りを守る効果も期待できます。
素材は涼しげなメッシュ、ニット、ウェットスーツなどにも使用される防音効果の高いネオプレンなどさまざま。用途や季節に合わせて選ぶのが良いでしょう。
ちなみに、馬に使用する耳栓というものもあるんです。
柔らかいボール状のスポンジのような形状で、直接馬の穴に装着します。 馬の聴覚をすべて奪ってしまうようなことはなく、大声や機械の騒音などの尖った音を吸収し、通常の音は変わりなく聞くことが出来るそうです。 日本の競馬レースでは使用が認められていませんが海外ではよく使用されており、2013・2014年の凱旋門賞を連覇した経験を持つフランスの競走馬・Treve(トレヴ)が好んで用いていました。
メンコ
競走馬がずらりと並んだ時にひときわ華やかなのが色とりどりの「メンコ(面子)」。馬の顔を覆う布のマスクです。 乗馬クラブでも時おり目にすることが出来ますね。
馬にメンコを使用するのにはいくつかの理由があります。
・耳を覆う防音効果により馬を落ち着かせる
先ほどご紹介した通り、馬は大きな音や声が苦手。ソワソワと困惑したりパニックを起こしてしまうことがあります。競馬場では特に観客の大歓声やゲートが開く音など、馬がびっくりしてしまうような大きな音であふれていますよね。イヤーネットと同じように耳を軽く覆ってあげることで、余計な騒音から馬の耳を守ることができます。
ただ、馬によっては聞こえる音が少なくなって不安な気持ちになってしまうこともあるようです。メンコをつけるかどうかは、馬の状態やレースの環境などをよく考慮して判断します。
・前を走る馬が蹴った砂や泥が顔にかかるのを防ぐ
競馬のレースでは多くの馬が前後入り乱れて走るため、周りの馬に蹴り上げられた砂が顔にかかってしまうことがあります。馬によっては競走意欲がガクッと落ちてしまう繊細な性格のものもいますので、メンコで顔を覆って砂や泥が付着するのを防ぎます。
また、メンコは騎手服と同じように馬主や厩舎など運営陣をイメージしたデザインが好んで使用されますので、音や泥砂から馬を守る機能性に加えて非常に遊びの利く馬のファッションアイテムでもあります。 乗馬クラブなどでは愛馬のメンコに刺繍やコラージュを凝らす方も多いのだとか。
シャドーロール
シャドーロールは馬の視界を制限するために使用する道具。
頭絡の鼻革にふわふわしたボア状のものを装着し、馬の視界の下方向が見えにくいようにします。これは動く自分の影や芝の切れ目に驚いてしまう馬に有効で、より足元を確認しようと首を下げるため、頭が上がりやすい馬の走行フォームを矯正する役割も担います。
同じような効果が期待できる馬装に、
・チークピーシーズ
目の横、頬革に装着するもの。左右の馬や足元の影が見えにくくなります。
・ブロウバンド
額革にボアを取り付けます。上方向の視界を見えにくくし、レースに集中させます。
これらはすべて馬の気性や走行姿勢をコントロールする効果のある道具です。ただ相手は生きた動物です。装着すればすべてが解決するというわけでもなく、同じ馬でも状況によっては期待するものと逆効果になったりすることもよくあるのだとか。
【シャドーロールの怪物・ナリタブライアン】
中央競馬史上5頭目のクラシック三冠馬・ナリタブライアン。戦績は21戦12勝、生涯獲得賞金は10億円を超える名馬として知られる彼は、最初から豪胆な馬というわけではなかったのです。ナリタブライアンは若馬のころから優秀ではあったものの、生来とても臆病でおとなしい性格の馬でした。 それが顕著に表れるのはレース中。彼は足元をうごめく自分の黒い影をひどく怖がり、走りに集中することができないという問題を抱えていました。
そこで解決策として使用されたのがシャドーロールでした。これを装着することによってナリタブライアンは驚くほどの集中力を発揮するようになり、デビューした1993年から1995年にかけてクラシック三冠を含むGⅠ5連勝を叩き出し、2年連続でJRA賞最優秀牡馬として栄誉を受けました。
肢巻・プロテクター・ワンコ
これらは馬の脚に巻き付けて使用する馬装具です。
肢巻(しまき)はバンデージとも呼ばれ、馬の脚の下部に包帯のように巻き付け、怪我などからの保護や保温などの目的で用いられます。
運動・調教中は伸縮性の高い素材のものを使用し、馬の脚同士が擦れ合った際の傷などを防ぐ効果もあるほか、テーピングやサポーターのように筋肉や腱を保護する効果も発揮します。
また、厩舎で休んだり長距離を輸送する際にも使用します。
この場合は柔らかく厚めの生地のものをしっかりと巻き、疲れの軽減、保温、血液循環を良くしてむくみを防ぎます。
プロテクターは硬い蹄鉄を履いた馬が自分の脚を傷つけないために、または障害飛越のバーなどとの接触を防ぐためなどに用いられます。
ワンコはその形状からベルブーツとも呼ばれ、馬が自分の蹄を踏んで欠けさせてしまう「踏み欠け」を防ぐための保護道具です。ベルトで装着するもの、ゴム製のものなど、馬によって素材を使い分けることが出来ます。
馬は大きな身体に対して繊細な脚をもつ生き物ですので、いつまでも元気に運動ができるように、私たち人間がしっかり足元の安全に気を配ることが重要ですね。
フライマスク
暖かい季節、馬をとってもイヤ~な気分にさせるのは、身体にたかるハエ・アブの存在。
この虫たちは吸血性で、馬の皮膚の柔らかいところにくっついては血を吸うのです。しかも噛まれる瞬間ものすごく痛いのだとか・・。
そこで登場するのがフライマスク。馬の頭全体をメッシュ状の通気性の良いマスクで覆うことで、馬の柔らかい顔周りをやっかいな虫やほこりから守ります。
別の役割として、色素が薄い馬に装着することで日焼けによる肌や目の痛みを防ぐサンシェード効果もあるそうですよ。 このような見た目ですが周りはしっかり見えているので心配ご無用です。
馬着
馬着(ばちゃく)は馬に着せる服のような馬具で、運動後や夜間の体温低下を防いだり、フライマスクのように虫刺されや虫由来の伝染病から身体を守るなどの役割があります。
春先や秋などは薄手のナイロン、寒い冬は綿の入った布製、雨などをはじく撥水性のものなど、用途や使うタイミングによって素材を使い分けます。
体温調節が難しい老齢の馬や生まれたばかりの仔馬の保温にも大変役に立つ馬装具です。
馬は元々寒さに強い動物ではあるので、馬着を装着することによってストレスを感じていないか、保温をしすぎて汗をかいていないか、などこまめにチェックすることが大切です。
まとめ
今回は馬のもつ性質や運動面をサポートする馬装具を中心にセレクトしてみました。
馬たちが感じるストレスを軽減し、私たちもスムーズに運動や調教ができるように、道具の特徴をしっかり知ったうえで使い分けられるといいですよね。 今回ご紹介した馬装具の他にもさまざまな道具がありますので、気になる方はさらに奥深い馬装具の世界に飛び込んでみてください。